研究室について
我々の研究室は、医薬品・食品成分、環境化学物質、さらには加齢や疾患に伴う酸化・炎症といった多様な環境因子が、生体分子に与える「付加体修飾」とその結果生じる生理機能の変化に焦点を当てています。これらの変化を正確に評価し、必要に応じて制御するための新しい技術を創出することで、個別化医療や予防医療の実現に貢献することを目指しています。
中でも私たちが特に重視しているテーマが、腸内細菌叢における付加体修飾を起点とした“質的変化”の解明です。従来の腸内細菌研究は、菌の種類や数の増減といった「量的変化」を捉えることが中心でした。一方、本研究室では、腸内細菌が持つ代謝酵素やタンパク質が付加体修飾を受けることで機能が変化する「質的変化」に着目し、それを分子レベルで高精度に解析する独自の研究手法を開発しています。
このアプローチにより、菌叢全体の構成を変えることなく、特定の代謝機能のみを選択的に制御するという新しい概念の創薬・サプリメント開発が可能になります。また、これらの“質的変化”を指標化することで、疾患リスクの予測や早期介入につながる次世代の健康評価技術の構築も視野に入れています。
研究背景と課題

腸内細菌は多様な代謝物を産生し、その作用は宿主の生理機能や疾患発症に深く関与することから、近年「新たな代謝臓器」として注目されています。しかし現在の主流は、16S rDNA解析に基づく菌叢組成の比較であり、「どの菌が、どれだけ存在しているか」という量的評価が中心です。
一方で、同じ菌叢組成であっても、その菌が置かれた腸内環境のストレス(酸化、炎症、栄養状態など)によって代謝活性が大きく変化している可能性があります。つまり、腸内細菌叢そのものが「老化」や「疲弊」を起こし、その質的変化が疾患の進行や治療効果に影響するにもかかわらず、現在の研究手法ではこれを捉えることができません。
さらに、現行の介入手法であるプロバイオティクスや糞便移植は、「菌を増やす・入れ替える」ことを基本としており、成人の腸内細菌叢が極めて強固であるため思うように構成を変えることは困難です。また、善玉菌とされる菌であっても、外部から大量に導入することで菌叢バランスを乱し、予期せぬ副作用を生むリスクも指摘されています。このように、「最適な腸内細菌叢とは何か」という根本的な問いが依然として未解決のままです。
本研究室のアプローチ:量から質へ
本研究室は、菌叢の量的な変化に頼らず、タンパク質の化学修飾や構造変化といった分子レベルの“質的変化”を直接評価するという新しい視点を提案します。
このアプローチにより、以下の新展開を期待しています:
- 腸内環境ストレスを反映する新規バイオマーカーの創出
菌の代謝機能を直接測定することで、疾患リスクをより精密に評価可能とする。 - 菌叢を入れ替えずに“機能”のみを制御する革新的な創薬・サプリメント開発
菌種組成を変化させる必要がないため、副作用リスクを抑えつつ高い治療効果を狙える。 - 疾患予測・治療介入の新戦略の構築
量的情報では検出できなかった微細な代謝機能の低下を捉えることで、早期診断や精密医療に貢献する。

本研究室は、これらの取り組みを通じて、腸内細菌研究に新しいパラダイムをもたらすことを目指しています。菌叢の「量」ではなく「質」を捉えることで、これまで見えていなかった腸内細菌の真の姿を明らかにし、健康科学・創薬研究に革新をもたらします。
